Fish & Paintings Diary

アクアリウムとアクリル画

【小説】大人が主役のファンタジー「ローズ・マダー」

こないだ、休み中に一気読みした本です。


スティーブン・キング著「ローズ・マダー」
白石朗訳 新潮社


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キング小説は何冊か読んでるから

もちろんこの小説も存在は知っていましたが

中学の頃なんかはとても読む気になれなくて。


難しそう&やたら長そうだし

大人すぎる上に既婚者の主人公に共感できる気がしなかったし

ストーカーの暴力夫という重苦しいテーマも気分じゃなかった。


同系列の「ドロレス・クレイボーン」だけは

一人称の軽妙な語り口のせいかサクサク読めた。

「ドロレス・クレイボーン」「ジェラルドのゲーム」「ローズ・マダー」と

マダム主人公三部作の中では、私はドロレスの性格が一番なじみやすかったな。



この「ローズ・マダー」ですが

先日たまたま再び手に取るきっかけがあり見てみたら

難しくて話が重そうなのは見た目だけだった!

めっちゃ簡単でおもしろいじゃん~!


それでも数日かかったけど

最初から最後まで一気に読んでしまいました。



全部読んでみて思ったのは、

本の紹介文が残念すぎた、ということ。

ファンタジーだということが明記されていないんです。

訳者もサスペンスと書いているし、冒頭部分を読んだだけではわからない。


でもこれ、オカルト要素を多分に含んだダークファンタジーなのです。

大人のおとぎ話です♪


なんといってもパラレルワールドが登場するし怪物はいるし

途中から異世界へ行っちゃったりするんですから。

もちろんホラー要素あり

狂気とバイオレンスもあり

友情あり純愛ありの盛りだくさんです。



アーシュラ・K・ルグウィンが

ファンタジーの読み手は子どもや学生だけとは限らない

むしろ大人や中高年の読者もたくさんいるのに

なぜファンタジー小説の主人公の多くが10代の少年少女なのか疑問に思う

みたいなことを書いているのですが


だとすればローズは、ファンタジー界では稀有な大人の主人公の1人です。

30代前半ですからね。

不思議体験するにはちょっと遅い?

いやいやそんなことない

いくつになっても冒険していいし

異世界へ行ったっていいじゃない〜ヽ(^。^)ノ


ちなみに流行りの転生ものではありません。

行って、また帰ってくる。

こっちの世界での自立支援施設や仲間たちも出てくるし、

異世界から戻ったあとは地に足をつけて生きてゆきます。



興味深いのが、

ローズが骨董屋で不思議な油絵を見つけるシーン。


赤紫の服の女性が後ろ向きで丘に立っているという絵で

店主によると「無名の三流画家の平凡な作品」ということですが

ローズは一目見てこの絵に引き込まれ、

要らなくなった結婚指輪と交換で売ってもらいます。

お値段は交渉して50ドル。


DV被害者のシェルターに身を寄せたあと

ちょうど施設を離れて新しい生活を始めようとしていたローズは、

一人暮らしのアパートにこの絵を飾って、励みとします。


絵に描かれている女性の凛とした後ろ姿から勇気をもらい

新しい仕事、新しい出会いのたびに

「あの女性ならきっと、こんなところで怖気づいたりしない」

と自分に言い聞かせて、過去の臆病な自分を振り払ってゆくのです。

(小説の題のローズ・マダーは、この絵の題名でもあります)



もう、その画家がうらやましくてまぶしくて 涙が出てきた。


今まで有名無名、いろんなアーティストを見てきたけど

どんなに儲かってることより 有名であることよりも素敵じゃない、そんなの。


三流画家だっていい 

無名でも 多くの人に賞賛されなくてもいい

骨董屋の片隅で埃かぶっててもいい 

そんなの全部どうでもいい


まるで運命みたいに 出会って見つけてもらえて 

たったひとりの誰かの心を、そんなふうに動かすことができるなら

そんなふうに、一歩を踏み出す勇気をあげることができたのなら

もうそれだけで、絵描き冥利に尽きるじゃない。



もちろんローズの気持ちは、自分の願望を投影した幻想に過ぎません。



でも少なくともその絵は、投影の対象になれたってことじゃない。

彼女の生きる力を引き出す媒体になれたんじゃない。



一枚絵は、絵本や小説とは違う。

「話に感動しました」がありえないからこそ、こんな出会いは奇跡。

絵は、見る人に物語を作ってもらわなきゃいけない。

この絵に至っては、ローズの人生の物語の一部にさえなってゆくわけで。




・・・と感動していたら

やっぱりスティーブンキングだよ

いい話で終わらせるはずなかったよ( ̄▽ ̄;)


実はその絵、怪奇現象を引き起こす魔法の絵だったことが判明します。


勝手にズームアウトしちゃうし

コオロギ出てくるし

異世界への出入り口になっちゃうし °˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°


描いた人が存在するのか

そもそも人間が描いたのかもわからない。


しかも、絵に描かれていた女性

ローズが自立への心の支えとしていたその女性は

実は、恐ろしい魔物だったことがわかってきます。



異世界の話はもっと語りたいけど
ネタバレになっちゃうのでこのへんで・・・



あと、この小説

ローズの視点と、彼女を追ってくるノーマンの視点が交互に切り替えられつつ進むので

DV夫で警官ノーマンの心情やモノローグもかなり丁寧にひろってゆきます。


絶対関わりたくはないけど、不思議だし興味もある

「ああいうクズみたいな男って何考えて生きてるんだろ?」

という好奇心も満足させてくれます。


殺人鬼小説みたいでもある。

後半でノーマンが、牛の覆面をパペットみたいにして一人で会話しだすところなんか
かなり不気味でゾ~ッとします。

おもしろかった♪

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